企業改革はやり方次第で将来に大差

日経ビジネス99.7.5号(連載コラム視点)
上山信一

 

多くの企業が「全社構造改革」に取り組んでいる。だが、よく見ると、その内容には大差がある。そこで今回は、数々のケースにかかわる経営コンサルタントの立場から、その成功のポイントを考えてみたい。

 構造改革は、実現に数年はかかる。中間段階で、読者がご自身の会社の構造改革の出来栄えを採点するとすれば、どこに着目すればよいのか。5つのチェックポイントを紹介する。

構造改革と現場改善の違いは

@社長は、従来型の現場改善と全社レベルの構造改革の内容、アプローチの差を役員に説明できているか。

 構造改革とは、文字どおり全社の事業ポートフォリオの見直しをいう。事業の整理、撤退や買収、売却が前提だ。担い手は、社長とコーポレート部門である。ところが、事業部の現場改善活動を「構造改革」と呼んでしまっている会社がある。中身のほうも「もっとコストを下げ、拡販も」といったもので新味がない。これは、多くの場合、社長がすべてを事業担当の役員に丸投げしていることに起因する。
 さて本物の「構造改革」では、最初に遭遇するのが低収益事業の扱い。コーポレート部門としては、縮小、売却を考えたい。当の事業部門には「拡大発展」の4文字しかない。葛藤が生じ、社長の出番となる。
 こういう場合は、社長は、コーポレート部門と相談し、あらかじめ目標値を決める。例えば全社の株主資本利益率(ROE)の目標を2003年に12%とし、そこに向けた各事業部の目標を決める。事業担当役員は、それに従い、投資計画や現場改善活動を見直す。現実味のある計画が立たなければ、その事業はコーポレートが預かる。このような「納得のプロセス」を経て、構造改革は実行の日の目を見る。

A社長は達成目標を期限とともに投資家に約束しているか。

 社長が自ら数年先の目標を明示し、「それが達成できなければ引責辞任をする」という決意を表明している企業は強い。役員に対して、厳しい目標を与えられ、社員に対しても、「信賞必罰」の人事が徹底できるからだ。

B構造改革の目的として、将来の明るい成長戦略が示せているか。

 例えば、米IBMのガースナー会長は、全体の27%もの人員の整理をする一方で、サービスビジネスへの転換を掲げた。片や多くの日本企業の場合、とりあえず過剰な設備、人員を削るというものの、将来構想はあまり語られない。これでは株価対策上も、社内の士気にも良い影響は与えない。

C事業の売却、買収が真剣に検討され、資金の手当てとともに、いつでも発動できる状況になっているか。

 全社の事業ポートフォリオの入れ替えは、企業の合併・買収(M&A)なしでは難しい。整理、撤退だけではROEは7〜8%程度までは回復しても、それ以上は上がらない。また、企業としての成長も見込めない。比較的短期間に事業を育てるとなると、どうしても買収に目を向けることになる。
 例えば、ある化学会社は、成長事業部門の足しになりそうな世界中の買収候補案件のリストとそれぞれの想定買収額をデータベース化している。いざ、買収というときの資金調達の手段も、検討済みである。

成否は社長にかかっている

D社長が人事権を100%掌握し、構造改革に最適の人材を抜擢しているか。

 構造改革とは、過去の経営の否定である以上、人事の刷新が必要である。だが、現実には、重要顧客との人間関係だの年次だので、社長といえども手をつけにくい。
 ここで妥協すると絵に描いた餅になる。社長が担当役員の面子を思いやり、留任させたため、戦略を実行できなかった、という例は多い。

 以上、5つのチェックリストを見てきたが、実はほとんどが社長の仕事である。構造改革の成否は、やはり社長にかかっている。