強者作りの業界再編で競争力伸ばせ

日経ビジネス99.5.3号(連載コラム視点)
上山信一

 

 昭和電工、旭硝子、三菱化学などの大手製造業が本格的な設備廃棄を始めた。政府の産業競争力会議などでの議論も、生き残りのためには過剰な設備・資本・労働は思い切って削る、というところまできた。

 だが、削るだけでは、投資がますます落ち込み、デフレスパイラルが強まる。行き場を失った資金もだぶつく。大量失業の受け皿をどうするのか、など心配は尽きない。事業再構築のために個別企業がなりふり構わないリストラに傾斜するのは当然だ。だが、一方では国全体の最適シナリオを、誰かが描いておく必要があるだろう。

「メーカーは儲からない」か

 俗にいう21世紀の成長市場は、ネット、バイオ、ヘルスケアなどの分野らしい。残念ながら日本企業の得意な「モノ作り」ではない。多くの製造業の経営者も「メーカーは儲からない」と愚痴る。だが、マッキンゼーが調査したところ、決してそうではないことがわかった。米国の大手製造業223社について過去10年間の成長率と3年間の利益率がともに高い超優良企業を12社抽出し、成功の条件を分析した。

 当初は、ハイテクばかりを想定していたが、結果はすべて地味な業種だった。例えば、エマソン・エレクトリック(工場制御機器)、フェルプス・ドッジ(ワイヤーケーブル)、デラックス(伝票、贈答用カード)など、いずれも古くからある業界の覇者である。この12社の過去10年の平均成長率は11.7%、過去3年間の平均投資収益率は14.8%にも上り、ゼネラル・エレクトリック(GE)やスリーエム(3M)の業績をはるかに上回る。

 高収益の秘訣は本業での切磋琢磨である。各社ともジャスト・イン・タイムやサプライチェーンの構築に余念がない。また、高い成長の要因の56%は企業の合併・買収(M&A)による。まずは、国内の同業他社の吸収合併。多くはさらに、本業や周辺の分野で積極果敢な海外M&Aを仕掛けている。

 これらの超優良企業に共通するのは、本業への執着である。まず、本業でダントツの技術と生産性を確立する。そこから得た資金で生産性の低い競合企業を買収し、最高の人材と磨きあげた技術・ノウハウを注入して、一気に生産性を引き上げるのである。

 また、多くは、多角化よりも本業で培った目利きの能力をてこに海外企業の買収を手掛け、成功している。このように製造業は、経営次第で、たっぷり儲かる産業なのである。

 さて、翻ってわが国。「設備廃棄で国内の業界内の需給ギャップが消えれば、みんな仲よく生き残れる」という発想は時代遅れだ。もはや、資本市場は業界協調で「貧しきを分かち合う」という発想を許さない。「トップ企業なのに、なぜ余剰資金を使って下位を買収しないのか」という疑問を、投資家に浴びせられる時代がすぐ来る。

千載一遇のチャンスを生かせ

 今は強者にとっては、弱者をのみ込み、業界を再編する千載一遇の好機である。自動車、電機、部品などで国際競争力のある企業ならば、海外の競合先を買収すべきだ。ブリヂストンによるファイアストン買収が好例だろう。

 国内の業界は滅んでも、その中の優良企業が他社に資産を譲り受け、またグローバルにダントツになったほうが「社会最適」でもある。各社横並びで際限のないリストラ競争に走るよりも、世界レベルでダントツに強い企業を作る業界再編のほうが、ずっと理にかなっている。世界の例を見ても、成熟産業ではM&Aによる業界再編が競争力強化には不可欠だ。

 強い分野を一層強くすることが戦略の大原則である。とすれば、わが国は製造業の産業競争力強化のために、勝者育成の業界再編を急ぐべきである。

 まずは、優良企業の経営者自らが、グローバルな視点と高い志のもとに、果敢にM&Aに乗り出すべきである。財界と政府もそんなアグレッシブな経営者を支援すべきである。

(うえやま・しんいち)