本格化した合従連衝成功の条件は

日経ビジネス99年3月8日(連載コラム視点)
上山信一

 

 日本企業の本格的な合従連衝が始まった。住友ゴム工業と米グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバーの提携、三井化学と住友化学工業の汎用樹脂における合併など、ここにきて急に大手企業の合併・買収(M&A)、競合相手との合弁会社の設立が増えてきた。

市場が下すシビアな評価に対抗

 この背景には、もちろん大企業の深刻な収益力の低下がある。これに加えて、会計原則の変更と金融ビッグバンの影響がある。2000年3月期からは、関係会社までを含めた連結決算が始まる。さらにその翌年以降、金融商品などが順次、時価評価されはじめる。

 すると赤字の子会社、含み損を抱えた有価証券、持ち合い株などの資産は、持てば持つほど株主資本利益率(ROE)などの業績評価指標を悪化させる。評価が下がれば株価と格付けが落ち、資金調達コストを押し上げる。

 ビッグバン後の企業にとっては、株式、社債による資金調達の重要性が増す。おのずと、業績評価指標が気になり、不採算の事業や不要な資産は極力整理し、余剰資金は高収益事業に集中投入することになる。かくして、事業の売り手と買い手のニーズが合う。

 さて最近の動きだが、まずは同一業界内での大型合併が目に付く。グローバルには製薬、自動車。国内だと製紙、セメント、海運、銀行、建設、石油などの成熟業界が目立つ。

 だが国内の場合、派手に報じられる割に成果はいまひとつ。特に、老舗の大手同士の対等合併は、その後の改革の足取りが鈍い。例えば過剰設備の事業部門で「旧A社と旧B社の総員の融和を図って…」などと悠長に構え、リストラの時宜を逸する。経営トップも役員同士の融和に思いのほかエネルギーを使い、事業の整理が遅れる。かくして大型合併には期待外れが多い。

 総合電機や化学のように多角化の進んだ業界では、会社全体の合併ではなく、特定部門だけの合弁や業務提携をすることがある。総合電機メーカーの重電部門同士、化学会社の樹脂部門同士などの例である。会社同士の大型合併よりは身軽で改革は早い。

 だが問題はその後。効率化は進んでも、将来の絵が描きづらい。さらに下位を買収しローコストプレーヤーになるか。あるいは新分野も手がけ成長企業を目指すのか。だが、親会社のほうはお荷物事業を外に放り出しただけで、はや満足。合弁子会社としては、飼い殺し状態にイライラが募る。

 この種の合弁案は、ときに詰めが甘い。担当役員は「大手2社が組めばシェアがダントツ。市況も持ち直す」などと夢見るが、設備過剰の業界ではトップシェアをとっても、価格決定権は握れない。合弁後のコスト競争力や対流通戦略を精査すべきだ。競合との合弁案は、一見もっともらしい。だが、本来、縮小すべき事業を温存させてしまわないか見極めるべきだ。

発想転換し「異種連合」で先手を

 えてして、国内の同一業界内での合併、合弁は、単なる延命策に陥る危険性をはらむ。斬新な戦略や技術がどちらにもない場合、特にそうである。

 そこで考えてみるべきは、外資や異業種との合従連衝である。外資は特に金融、製薬、航空、石油、通信、メディアなどの規制産業で強い。多くは熾烈な国際競争を経て、技術も経営も実力は確かだ。片や、国内企業側には強力なブランドと優秀な人材がある。

 そして、最も注目すべきは、強力な外資と国内異業種の提携による既存業界への殴り込みだろう。米トイザラスは異業種の日本マクドナルドと組んで、日本の玩具流通業界を変えた。英ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)は、対日参入にあたり、国内の石油元売りではなく、流通業のいせやグループ(群馬県伊勢崎市)と組んだ。

 過剰な人員・設備を抱え、また頑迷固陋(ころう)な名門企業と交渉するよりも、先手を取ったほうが勝ちということか。今後の業界再編は、こうした「異種連合」の可能性を視野に入れたい。

(うえやましんいち)