99年は正念場「本物の改革」企業は覚悟を

日経ビジネス99.1.19号(連載コラム視点)
上山(うえやま)信一

 

私はプロの「改革屋」。企業の儲ける仕組みを再設計し、トップのマインドを変え、経営のやり方を刷新する。黒子で変革の触媒を務める。理想はネコ。気配はすれど目に見えない。だが、夜中には汗をかきかきネズミを捕る。

 さて、「改革屋」としては、各社の構造改革の成否をどう占うか。年初にあたり、見通しを語ろう。1999年は、大吉と大凶の白黒まだら模様。マクロ経済の低迷をしり目に、颯爽と21世紀の儲かる仕組み作りに邁進(まいしん)する企業が増える。かたや、縮小均衡に陥る企業も…。業種間格差よりも、同一業種内の優勝劣敗が目立つだろう。

99年の勝負で今後が決まる

 さて、どの企業も改革に取り組んでいる。だが99年は、いよいよ「本物の改革」をやるか、「小手先の危機回避策」にとどまるかの違いが各社の今後の命運を決する年になるだろう。

 「本物の改革」とは何か。第1の要素は、事業コンセプトと技術の刷新だ。品質とコストの改善はやって当たり前だ。むしろ、カギは「顧客との接点」の再構築にある。

 例えば、アスクル(東京・文京区)という会社。中小オフィス向けの宅配サービス業だ。文具、OA用品から、トイレットペーパー、ラーメンまで安くて早い。顧客からはファクスやインターネットで受注し、宅配する。買い物の時間と手間の節約を売る。新しいコンセプトをてこに市場も創れる。同社は一般家庭にもサービスを始めた。

 このような改革の機会はどの業界にもある。だが、ヒントはほかの業界や海外の同業者のなかにあることが多く、発掘の工夫がいる。

 また、本物の改革は「企業カルチャーを変える」という難問に直面する。日本企業は微妙な均衡の上に成り立つ生態系だ。戦略とカルチャーを同時に変える仕掛けが必要だ。

 2番目に、外からの「企業ウイルス」への対応も大切だ。これは、コンピューターのウイルスやいわゆる環境ホルモンにも似ており、突然にシステムの故障や組織の突然変異を起こす。

 例えば、米国の格付け機関による終身雇用制批判。これは日本企業の微妙なルールに無知な「悪性ウイルス」の典型だろう。さっさと撃退しないと若手の心を歪める。もっとも、この種の「米国産ウイルス」の是非は、ものしだいだ。「株主利益への貢献」や「業績評価の透明性」などは、なるべく早く採用すべきだろう。これらは、代理店との古いしがらみ、組合や役員OBの既得権益を壊す武器にもなる。

目標を定めて荒海に乗り出せ

 本物の改革に欠かせない第3の要素は、他社との合従連衝のスキル(技能)だ。企業改革の模範例である英ブリティッシュ・エアウェイズは、まず機材の整備や機内食をアウトソーシング(業務の外部委託)した。次に、経営陣は他社との提携による運航ネットワークのデザインに腐心した。今後の大企業は組織運営の巧みさに加え、アウトソーシングと企業の合併・買収(M&A)で差がつく。例えば、専門業者との提携で一見さえない物流子会社などが稼ぐ会社に化けたりもする。

 本物の改革を支える4つめの条件は、経営者の品性と志の高さだ。「粗にして野だが、卑ではない」のがベスト。上品過ぎると泣いて馬謖(ばしょく)を斬るに斬れず、機を逸する。人の品性と志は変えにくい。だが、経営者は夢を食べて成長する。よい夢のネタを届けるのがスタッフの仕事だ。

 さて、多くの日本企業はまじめで優秀な人材の集団だ。危機に陥ると強く自らを戒め、超人的努力で克服してきた。こんな風土だから奇想天外な改革や、合従連衝を仕掛け「米国産ウイルス」を使いこなせる辣腕の人材はまだ育っていない。

 だが多くの経営者が「小手先の危機回避では生き残れない」と自覚しはじめている。本物の改革の手法も見えてきた。目標さえ決まれば日本人は早い。99年こそ、本物の改革に乗り出そう。

(うえやましんいち)