構想日本ニュースレター寄稿論文
教育改革は、各地の学校経営の見直しから
―米国からの問題提起―

2002年12月

上山信一(ジョージタウン大学研究教授&構想日本政策・運営委員)

 私は、家族4人で米国(東海岸、ワシントンDC近郊)で暮らしています。渡米以来2年間、慣れない英語で戸惑う2人の子供たちと一緒に教育についてずいぶん考えさせられました。長男は私立高の1年、次男は公立小学校の5年生です。個人の体験をもとに、教育問題を解くヒントを探ってみます。

1. 親と校長の絆が支える学校経営

 まず、学校と接して感じる日本との大きな違いです。

○発見@:校長の権限は絶大

 校長はほとんど毎朝、校門に立つ。私立の小規模校の校長は、自ら授業も教える。公立でも私立でも通信簿は、校長が目を通す。添削もする。それを通じて先生の指導法や個々の子供の成長ぶりをチェックする。校長は抜き打ちで授業に現れる。まるで中小企業の親父さんのように精力的に動く。

○発見A:親と教師のホットライン

 ワシントンポストで、最近「子供の宿題が難しすぎる」という記事がでた。「親にも解けない」という。宿題は、けっこう親が手伝う。ホームワークは、家で親が教えるために出すという学校もある。理科や社会はホームページに宿題が掲示される。電子メールを使った各科の教師と親のコミュニケーションも密だ。子供を交えた教師と親の面接をみんな気軽に頼む。

○発見B:放課後は、親がケアする

 夕方3時半以降の校庭は学校の管理を離れ、住民に開放される。子供たちの運動部は学校の枠を越え、地域のNPOが運営する。そこが校庭を借りる。コーチはお父さんたち。送迎も親。先生は関与しない。

○発見C:数字による管理

 次男(小5)の通信簿。科目別にチェックポイントが10項目。授業参加の積極性、宿題の提出状況、理解力などの項目別に、AプラスからFまで12段階の数値評価がある。しかもコメントがついてくる。これが学期に2回ずつ。評価の網の目は細かい。まるで勤務評定だ。ちなみに、公立は24人学級。私立は5人から15人だ。少人数教育のメリットだろう。

2. 日本へのヒント

日本の教育にはそれなりの良さがある。しかし、こと学校の経営に関しては、米国に一日の長がある。簡単にまとめてみよう。

@ 学校を特別扱いしない。ホテルやレストランなどと同様に経営する。

A 教師は聖職ではない。他職種との転職も多い。失敗も許される。親も子供も、遠慮せず、おかしいことはおかしいと言う。教師もあっさり非は認める。

B 校長は、経営者。店長、社長ができる人材を充てる。品質管理は、個々の教師の献身的努力だけに期待せず、校長の経営手腕で保つ。

C 教育委員会の関与が少ない。現場の校長に権限を下ろす。校長は迷ったら、PTAと相談する。PTAも校長を守る。

D PTAが株主のように経営に参加する。希望すれば、カリキュラムの改訂にも親が参加できる。学校側も親にボランティアを要求。実習や遠足の引率はもちろん、親に特別講義を頼む場合もある。

E 徹底した情報公開。学力テストの平均点、落第生の数(高校の場合)から予算の使い方まで、すべて情報公開される。新聞も容赦ない。よくやった先生や生徒の表彰も盛んだ。

F 統一学力テストは、教育成果と学校の経営評価のために不可欠とされる。学校評価の要は偏差値ではない。学力の伸び率だ。「一年間の生徒の学力の伸び率が、前年実績値より劣っていないかどうか」を重視する。

G こどもは個々に違う。だから、能力別編成は当然で、飛び級もある。しかし子供同士の優劣比較はしない。"Everyone is different. We respect it. We expect it" という標語がある。「子供は百人百様。それを理解し、尊重しよう」という意味だ。

 さて、こちらからは、日本の教育論議がどうみえるか。有識者を集めた抽象論ばかりしていていないか。現場の改善策が見えない。問題は、私たちの子供、個々の学校をどうするかなのだ。学校教育の在り方は、地域で親と教師が考える。各地で実験をやる。教育改革は、足元からだ。

(了)